技術者目線の自動車

先日仕事のお客さんと食事に行ってきました。
三菱自動車で生産技術を長年勤め、定年前に現在の会社へ転職された方です。
そこで、自動車メーカーについて色々と伺いました。


なお、簡単に言うと「何を作るか」が開発だとすると、「どうやって作るか」が生産技術です。
エンジン製造において長年”どうやって”、低価格、高品質、短納期を実現するかを追及されてきた方です。


さて、聞きたかったのはイワユル「すり合わせの技術」というやつです。
よく車は「すり合わせの技術だから…」というのを聞きますが、実際何なのか?
最近は、「電気自動車になったら部品の組み付けだけだから誰でも作れる」みたいな話が出ていますが、実際技術者としてどう思っているのか?などです。



まず、結論から書いてしまえば、電気自動車になることで相当すり合わせを必要とする部分が減るのは間違いないでしょう。ただ、無くなることはありえないです。


すり合わせの技術について
1本の棒があります。それをベアリングに差しこむとします。
棒の公差は0.03mm、ベアリングも同様です。
すなわち、例えば直径10mmとして、棒の直径は10.000〜10.03までOKです。
ベアリングの穴の径は9.970〜10.000までOKです。
(実際には10mmの穴に、10mmの棒は入りませんが)

しかし、自動車メーカーはさらに0.01mmずつ細かく分け、できるだけガタつきの無い組み合わせを独自でやっています。だから単に部品Aと部品Bを組み合わせるのではなく、細かい寸法差にあわせて部品A’と部品B''を組み合わせると言ったことをしています。
何万点と言う部品に対して!!!


自動車部品の中でもエンジンは圧倒的に部品点数が多いので、これがなくなるだけですり合わせを必要とする部分はかなり減ります。しかしそれでも部品点数は多いです。
これらを調整するのは、歴史のある自動車メーカーに優位性があるのは間違いないでしょう。


実際、中国で勢いのあるメーカーBYDはその安さ攻勢で一気に売上を伸ばしましたが、故障が多いと最近では売れ行きが芳しくないとか。


自動車は他の商品と違い不良品が許されません。たとえ1万台に1台でもダメ。100万台に1台でもダメです。
ゼロじゃないと。この意識が自動車メーカーは強烈です。
それだけ意識が高くても、実際にはリコールも起きるし、まれに不良品もある。これが現実であって、じゃあ電気自動車なら家電メーカーでも作れるかとなると心もとないわけであります。



・・・とは言えですね。
新興国はまた事情が違いまして。
今までまっとうな移動手段がなかった人に対して、多少故障が多かろうと、安全装置がなかろうと、自転車なりバイクなりが自動車になるインパクトは大きいように思います。
今まで日系企業が作り上げてきた信頼性を壊してまで安かろう悪かろうは作れないと思います。
ただ、エンジン付きにせよ、電気自動車にせよ、新興国は市場がそもそも違うというのも事実ではないかとワタシは思います。



そういえば、最近元気のいい韓国メーカーの事も聞いていました。
現代自動車はワシらが技術を教えたんじゃ!最近は三菱がだらしなくて逆転されてしもーたけど」と
そういえば、10年くらい前は形は三菱車ってのが韓国ではいっぱい走ってましたよね。
最近、ロシア、ブラジル、東南アジアで元気のいい三菱。
頑張ってもらいたいものです。



最後に。
「ワタシの義父さんのグランディスは28万キロ、我が社の運転手のデリカ(正確にはエンジンだけ三菱)は36万キロ走ってます。」と褒めたところ、「エンジンは三菱いいぞ」と。
ご本人もいまだ三菱車を乗っております。